ソフトウェアとコミュニティ (ペパボでの研修) @ 2024-06-14
2024-06-14 にペパボで実施された、おもに 2024 年 4 月入社の人々に向けた研修の資料の一部をここで公開します。テキストコメンタリー付きです。ソフトウェアやコミュニティについて話しました。
- https://x.com/kentaro/status/1800869030104019084
- 研修実施の 2 日前である 2024-06-12 にこの投稿が出てきて「その心は…?」となりました
- 自分にとってのコミュニティの入口となったRuby札幌のことは紹介しておきたいところです
- 人は、最初に見たコミュニティを「なるほど、これがコミュニティか」と思い込む (Imprinting)
- ぼくがコミュニティについて考えるとき、今でもベースにあるのはRuby札幌での体験です
- 他にもいろいろあるのだけれど、最近もアクティブに関わっているものとして Ethereum Japan と松本市と Teacher Teacher のコミュニティのことを軽く紹介しました
- ここで、研修を受講するみなさんのことを少しずつ教えてもらいました
- 趣味やハマっていることなどを教えてもらうことで、このあとの説明を、相手に合わせた例え話に調整するなどしたいと思っています
- 中世ヨーロッパでは、ソフトウェアは議会によってつくられるものでした
- 現代ではどうでしょうか?
- https://stackshare.io/shopify/shopify
- 一口にソフトウェアといっても規模の大小はさまざまで、ひとりでつくるものもあればたくさんの人たちでつくるものもありますね
- https://pr.forkwell.com/career_navi/dhh-rails-large-scale-development/
- Ruby on Rails における DHH のように、
- けっこうな規模のソフトウェアにおいても、その作者として個人名が挙がることはよくあります
- https://www.mdn.co.jp/design/features/6616
- そういった意味で「ソフトウェアの作者」ってのは「漫画の作者」に似た性質を持っているかもしれません
- 「このアニメは誰がつくったか?」だと制作会社の名前が挙がることが多いが「この漫画は誰が描いたか?」だと個人名が挙がる
- 荒木飛呂彦さんのことを知らなければ、この表紙を見ても「ザ・ジョジョランズって漫画の 1 巻なんですね」という情報しか読み取れないかもしれない
- ジョジョの奇妙な冒険の過去作を読んできた人からすれば、もっと多くの情報をキャッチしてしまう
- https://github.com/k1low
- 御社の k1low さんが開発し公開しているソフトウェア群には、強い作家性を感じています
- 「こういうソフトウェアが好きなんだろうな」
- Linus Torvalds は、Linux をつくったことで Git もつくることになっただろう、と捉えています
- ぼくが Slack を使い始めてしばらく経ってころ、立ち上げメンバーに Stewart Butterfield がいることに気が付いてとてもびっくりしました
- スチュワート・バターフィールド - Wikipedia
- Flickr - Wikipedia
- Slack (ソフトウェア) - Wikipedia
- Flickr に続いて Slack でも、ゲーム関連のものをつくっているときの副産物がプロダクトになっています
- こういう事例を集めるのが好きなので、みなさんも知っているものがあれば教えてください
- ここで tea.xyz を紹介します https://tea.xyz
- macOS 向けのパッケージ・マネージャ Homebrew の作者である Max Howell が、今は tea.xyz に取り組んでいます
- 🍺 → 🍵
- Max Howell
- 「いいパッケージをつくってたくさんインストールされたら、なにかしらリターンがあってもいいよね」的な
- Homebrew をつくって普及させていろいろ思うところがあって tea.xyz に至ったのだろう、と感じられます
- 受講者のみなさんに「コミュニティってなんだと思いますか?」「あなたの身近にあるコミュニティをひとつ教えてください」と問いかけて、いっしょに考えてみました
- https://dictionary.goo.ne.jp/word/コミュニティー/
- デジタル大辞泉では、かなり狭義の、元来のコミュニティについて書かれていますね
- いわゆるゲマインシャフトの方
- https://kotobank.jp/word/ゲマインシャフト-59943
- ゲマインシャフトのこともいちおう押さえておきましょう
- https://kotobank.jp/word/ゲゼルシャフト-59451
- ゲマインシャフトと対をなす概念であるゲゼルシャフトのことも見ておきましょう
- 今日、この場でみなさんと口にしている「コミュニティ」はゲゼルシャフトに寄ったものであると言えますね
- 書籍『People Powered』にて Jono Bacon はこんなふうに説明していました
- 日本語訳の方から引用しています
- ジョノ・ベーコン. 遠くへ行きたければ、みんなで行け ~「ビジネス」「ブランド」「チーム」を変革するコミュニティの原則 (p.45). 株式会社技術評論社. Kindle 版.
- https://listen.style/p/hyper-startup/arplnscf
- 最近ぼくが聴いたハイパー起業ラジオというポッドキャスト番組のエピソードにて、kensuu さんはこのような定義を示していました
- https://note.com/tales_and_tokens/n/ne4f76b26c86e
- sasakill さんは「資産」を中心に考える定義を導入しています
- https://magazine.rubyist.net/articles/0028/0028-ForeWord.html
- ぼくがコミュニティについて何かを話すときには必ず参照する takahashim さんの文章です
- まだ読んだことがないという人は、ぜひ読んでみてください
- さて、今日のこの場では、コミュニティを「資産を共有する集まり」と捉えて、以降の話を展開してみたいと思います
- sasakill さんは「狭義に」と前置いていましたが、ぼくが思い浮かべるコミュニティはどれも、この定義にもとづいて説明できそうで、言うほど狭い定義にはなっていないと感じています
- 個人的にとても好みの定義です
-
先に紹介した、ぼくが参加しているコミュニティの一部です
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それぞれのコミュニティにおける「共有している資産」は、なんでしょうか?
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たとえば 2007 〜 2008 年をふりかえって思い起こす当時のRuby札幌の資産は「札幌で Ruby やソフトウェア開発について楽しく盛り上がれる場」と言えるんじゃないかと思います
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研修当日は、他のコミュニティについても具体的なエピソードを交えながら「このコミュニティには、こういう資産がある」と紹介していきました
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資産、つまり「なにかを大切に想っている人々」の集まりなわけなので
- 資産価値を高めるような関わり方をしたら、よろこばれることでしょう
- 資産価値を毀損するような関わり方をしたら、いやがられることでしょう
-
「これは自分も大事にしたい!」と思えたら、そういう気持ちで関わっていったらよいと思います
- もしペパボに身を置くみなさんが「ペパボには、共有している資産がある」と感じているならば、その資産の周辺にコミュニティが存在していると解釈できるでしょう
- 会社も、コミュニティのひとつの形態であると言えますね
- ところで、すでに退職しているぼくも「ペパボに縁のある人々」との間で共有しているナニカがあると感じています
- かつていっしょに働いていた人をキマグレエフエムというポッドキャスト番組をやっていたり
- かつていっしょに働いていた人と、今は別の現場でごいっしょしていて「仕事しやすい!」と感じていたり
- ぼくから見て、ペパボという会社は「コミュニティ」として運用されているように見えています
- みなさんが入社してからこうした研修や実践を通じて体得していっている「会社との、いい付き合い方」があるんじゃないかと思います
- 「会社で、こういうことをするとよろこばれる」と感じられるものがあれば、それは他のコミュニティでも同じようによろこばれる可能性が高いと思います
- もちろん、バイブスが合わないコミュニティはあるでしょうから、差異に興味を持てたら探求してみるとして、どうしても合わなかったら無理に付き合うことなく距離を置けばよいでしょう
- https://ttj.paiza.jp/archives/2021/09/15/980/
- 御社の作家 antipop さんも「コミュニティとしてのエンジニアチーム」と直接的な表現で説明されることもありますね
- ここからは、事前に周知させてもらったアンケートへの回答の一部を見ながら、御社の人々がコミュニティからどんなものを受け取っていると語っているか、いっしょに見ていきましょう
- 回答内容のすべてに目を通してサマライズしていたら、自分にとっておもしろい発見がありました
- 回答してくれたみなさんが「コミュニティから受け取っているもの」として挙げてくれたものの半分以上は、なかなか捉えどころのない、感覚的なものでした
- 「情報」「知識」「知見」のようなものは、わかりやすく扱いやすいと思います
- なんだったら、コミュニティに参加しなくても、その場に行かなくても、コピーされたものを受信できそうです
- 一方で「刺激になった」「視野が広がった」「楽しかった」などは極めて主観的で、曖昧で、これをそのまま聞かされても「そうなんですね」くらいのことしか言えないかもしれません
- だからこそ、自分の身を投じて参加する意味がある、ということでしょうか
- 特筆すべきは、回答してくれたのは「言語の扱いに長けた人々である」ということです
- 語彙力がなくてこういった回答になっているわけではない、とぼくは見ています
- 言語を扱うことを生業とし言語感覚に優れた人たちが「身体感覚」に強く紐づくであろう「刺激」「視野」といったことをしきりに言っているわけで、これはおもしろい状況だと思いました
- ぼくの考えもうまくまとまっていない感覚はありつつ、2024-06-14 の時点でのスナップショットをお伝えしました
- これまで「言語化は大事」と主張してきた回数は数知れず、だけれども…?
- アジャイルソフトウェア開発を実践するとき、身体知を駆動しまくっている感覚があります
- みなさんはどうですか?これはいろんな人と話してみたいテーマです
- 最後に、受講者のみなさんを “あなた” として、ここまでに展開してきた材料を組み合わせながら、いただいたお題にひとつずつ回答していく時間を過ごしました
追加 DLC
2024-06-15 に収録したキマグレエフエムのエピソードで、研修当日にカバーできなかった部分を話しました。 【224】コミュニティ産 - キマグレエフエム - LISTEN に、コンピュータによる書き起こしもあります。
[https://open.spotify.com/episode/3J0svL4lIBqvwwdNwhpTAl
関連リンクたち
- 初心者のためのRubyKaigi入門/RubyKaigi Introduction - Speaker Deck
- 「生産者の顔が見える」的な話がある
- 「いるだけで成長できる環境」とはどんな場所か? / pepabo-engineer-community - Speaker Deck
- 2021-08-26 に自分が使った資料、今回の準備を始めるにあたって見返した
- mascot character logo design
- 結局、資料には盛り込まなかったけれど Simon Oxley のことも話したかったんだよな
- 【Interview】「若者よ、旅に出よ!」オクトキャットの生みの親、Simon Oxleyさん | 株式会社ヌーラボ(Nulab inc.)
- 増井俊之
- masui さんの話もしたかった
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- コミュニティに絡めて「Giver / Taker / Matcher」の話をする案もあった